顔面神経麻痺・Ramsay Hunt(ハント)症候群

顔面神経麻痺とは

顔面神経麻痺は文字通り顔の筋肉を動かす神経が麻痺して、顔の表情や仕草、動きに支障を来す疾患です。顔の半分の筋肉の動きが悪くなり、まぶたが閉じづらい、口が上手く動かない、顔が引きつるなどの症状が出ます。重症になると表情が全く無くなり、唾液が漏れるようになったりします。

顔面神経麻痺・Ramsay Hunt(ハント)症候群の原因

顔面神経は脳幹という部位から側頭骨(内耳や中耳を含む頭の骨の一部)を通って、耳の前から顔面に広がっています。この神経の経路の途中で何らかの原因により炎症を起こすと、浮腫(神経のむくみ)を起こします。しかし、通り道が骨で囲まれているため浮腫が解消しづらく、炎症がより強くなります。この過程で神経がダメージを受け、筋肉を動かすための信号が伝えられずに麻痺を起こすことが分かっています。最も多いものは原因不明の特発性麻痺で「Bell麻痺」と呼ばれ、これが60~70%を占めます。次いで水痘帯状疱疹ウイルスによるものが10~15%、その他顔面や頭部の外傷、中耳炎、耳下腺腫瘍(癌)などが原因として顔面神経麻痺を起こします。この中で水痘帯状疱疹ウイルスが原因の顔面神経麻痺は「Ramsay Hunt(ラムゼイ・ハント)症候群」と呼ばれ帯状疱疹性外耳炎やめまい・聴力低下を合併することもあり、時に難治例が見られます。子供の頃にかかった水痘(水ぼうそう)のウイルスが
Bell麻痺の中でも重症例はヘルペスウイルスが関係しているとの報告もあります。

顔面神経麻痺・Ramsay Hunt(ハント)症候群の治療

顔面神経麻痺の中でも最も多いBell麻痺(原因が特定できない麻痺)は経過良好なことが多く、軽症例・中等症例では2~3ヶ月以内に治癒が見られます。しかし、麻痺の進んだ重症例や、帯状疱疹によるRamsay Hunt症候群では薬物による治療が必要です。

1) ステロイド療法:
顔面神経麻痺そのものに対して、神経の炎症と浮腫を軽減させるためにステロイドという強い抗炎症作用を持つ薬を使います。重症度や体重を考慮しますが、一般的には治療開始時には大量に投与し、漸減投与と言って少しずつ量を減らしながら経過を見ていきます。この投与方法では重大な副作用を来すことは稀ですが、基礎疾患として高血圧症がある場合には血圧の上昇、糖尿病がある場合には血糖値の悪化を来すことが多いので、要注意です。また免疫系にも作用する薬ですので、元々肝炎などの基礎疾患を持っている方やワクチン接種を控えている方は慎重に投与する必要があります。

2) ステロイド+抗ウイルス薬療法:
Bell麻痺の中にウイルスが原因と思われるものがあること、またRamsay Hunt症候群では水痘帯状疱疹ウイルスにより重症の顔面神経麻痺を来すことから、ステロイドとともに抗ウイルス薬を投与します。上記1)と同じようにステロイドの漸減投与と並行して抗ウイルス薬を5日~10日間投与します。最近の抗ウイルス薬は副作用が以前ほどありませんが、高齢者や腎機能が低下している方は用量を減らすことがあります。

3) 手術治療:
顔面神経麻痺の発症から7~10日程度である程度の改善が見られる場合は、上記の1)または2)の治療法を継続します。しかし、発症時点で麻痺が重度の場合や治療にもかかわらず改善が見られない、あるいは悪化するケースでは手術を検討します。顔面神経が通っている周囲の骨を削り、神経の浮腫を軽くする手術で、その場合入院治療が必要となります。また外傷性顔面神経麻痺のように頭部の骨折が原因で起こる麻痺も手術の対象です。

注意点:
顔面神経麻痺は発症してから10日ほどで神経の炎症が治まると考えられています。この間に治療を開始しない場合、神経のダメージが残ったままになり麻痺が固定することがほとんどです。早期診断・早期治療が重要ですし、原因によっては治療法が変わってくることもあります。できるだけ早めに医療機関を受診しましょう。

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